にせいの日記

「自分の好きなものってなんだろう?」という疑問を解決するために、気が向いた時に好きなことを書いてみて、「自分の好きなもの」をあぶり出そうと試みています。

数学が好きな人を好きな人のための数学基礎知識

※本記事は日曜数学 Advent Calendar 2021 の7日目の記事です。

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6日目はキグロさんの「台形ってすごいねー」でした。台形はすごいです!(信者)

◎はじめに:日曜数学会で発表しました

今年2月に、オンライン開催の日曜数学会で「数学が好きな人を好きな人のための数学基礎知識」という発表をさせてもらいました。

*スライド

www.slideshare.net

*発表の様子(ニコニコ動画


果たして「数学好きのためのイベント」で発表する内容なのか?どう発表したら興味を持って聞いてもらえる?……などなどいろいろ考えて臨みました。*1
結果的には予想以上のコメントや反応をいただきとても嬉しかったです。話しきれなかった分を休憩時間中にも話させてもらって、全部で20分ほど話してしまったみたいです。笑
聞いていただいたみなさま、ありがとうございました。

で、発表してみた結果、このことに関しては思うところがたっぷりあることがわかったのでブログも書くことにしました。*2

◎同じような立場の人たちにメッセージを送りたいと思った

発表内容自体は、昨年10月頃に思いついたものでした。メッセージを伝えたい対象は「自分は数学が好きというわけではないけど、好きな人が数学を好きであるがゆえに数学との関わり方に悩む人」

私自身は「パートナーが数学大好き」という立場で5〜6年ほど数学的なものにささやかな関わりを持ってきました。元々理系だったので別に数学自体は嫌いじゃなかったけれど、それでも自分自身が「数学を好きになった!」と思うわけでもなくて、それゆえにふとした場面でパートナーと衝突したり、もやもやした気持ちを抱えることがありました。

twitterを眺めているとその相手が家族だったり子供だったりする人もいて、特にこれまで数学とほぼ接点のなかった人にとっては困惑することも多いだろうと思いました。そして、同じような立場で、最近ちょっとだけ数学との付き合い方がわかってきた自分だからこそ発信できるものがあるんじゃないかと考えたわけです。

◎わかりそうでわからない数学用語

今回メインとして紹介した「数学における定義」「集合」「写像」は、実際に自分がパートナーのT氏と話していて「言ってることはわかってるはずなのに意味がわからない…」とつまづくきっかけとなる三大ワードでした。

「定義」は、日本語としての意味はわかるんですが、数学の話をする中ではそれ以上に強いものとして認識する必要があります。定義の内容を疑っちゃダメ(疑っても意味がない)し、よくよく聞くとその定義(条件)から導ける話しかしてないはずなんですよね。だから、言葉を聞いて何か脳裏に浮かぶものがあったとしても、そのイメージにとらわれてはいけないのです。
発表前は「これは数学をやってる人からしたら当たり前のことを熱心に語っているように見えて滑稽かもしれないな……」と心配でしたが、それでも「きっと私と同じ立場の人で新たな気付きを得てくれる人はいるはず!」と前向きに考えてスライドを作りました。結果的には、数学を好きな人からも「なるほど、その部分がわからないのね」と思ってもらえたようで良かったです。

「集合」をガチャガチャのカプセルでイメージするというアイデアは、昨年の夏にT氏から(何度目かの)イデアルの説明を受けた時に脳内に生まれた考え方です。これまで何度聞いてもしっくりこなかった対象について、劇的に理解が深まった瞬間だったので、なかなか気に入っています。カプセルの上側が透明で中身が見えるというイメージも良いです。
発表の際には他の登壇者の方(=数学が好きな人!)にも理解を示してもらえてとても嬉しかったです。

写像は、一般向けの講演などではほとんど出てこない(簡単な言葉に置き換えられている)単語で、だからこそ日々の会話で急に出てくると「えっ、何……?」となることが多いです。実は数学のめちゃくちゃ基礎的な用語と思われますが、高校までの数学の授業では習わないはず。しかしこれを理解してあげられるようになると、数学好きな人が自然と話す数学を聞けるようになるので、たぶんありがたがられます。

ちなみにこの辺りの基本的なワードと考え方を使いこなせるようになると、細かいことはわからなくても、数学の話の組み立てがなんとなくわかるように感じたりします。また、パートナーの話の筋が通っていない部分を指摘(質問)して、信頼と尊敬を勝ち得ることもできちゃったりします。

◎話を聞くだけなら、覚えるべきことはそこまで多くない

これも、数学好きではない人へ伝えたかったメッセージのひとつです。

数学好きの人も、全ての分野の数学が満遍なくみっちりと大好きというわけではありません。特に数学好きでない人にわざわざ話してくるようなネタは特に本人が大好きな分野の話である(からこそ我慢できずに理解できないかもしれない相手に話しかけてきてしまう)可能性が高いです。ゆえに、少しでもわかってあげたいと思ったら、分野と頻出単語をチェックするのが大事です。これをすると、別に数学が好きではなくても、めちゃくちゃわかってる風に話を聞くことができます。また、良かれと思って数学の話題を振ってあげた時に「その分野は詳しくないんだよね…」と返されて微妙な空気になるようなことも少なくなります。

参考になるかはわかりませんが「その他よく出るやつ」というスライドには、自分がよく間違えたりわからなくなったりする小ネタを集めました。また、このスライドには「数学が好きじゃない人間にはこんなこともわからないんだから気を付けてくれよな!」という、数学好きの人へのメッセージもこもっています。数学好きの人は「何度も話題に出しているのに全然わかってくれない…」などと思わず、あの手この手で工夫を凝らした説明をしてもらえたら嬉しいです。*3

◎大事なのは歩み寄ること

日曜数学会では発表時間に収まらず休憩時間に話させてもらうことになってしまった、スライド17枚目以降の話は、数学に限らないコミュニケーションのお話でした。

あまりに理解できない趣味だと、ともすればお互い歩み寄る余地などないと思い込んでしまいがちです。しかし、好きな人・大切な人が好きなものを(一部でも)一緒に楽しめるというのはとても幸せなことだと思うので、数学といえども怖がらずにお互い工夫して歩み寄ってみてほしいと思います。

◎“接待数学”界隈?

趣味で数学を楽しむ「日曜数学」に対して、数学が好きな人のために数学を嗜むこの分野は、一体なんと呼ぶのがいいのだろう……T氏と話したところ、「接待数学」というワードが浮上しました。接待と言うと、数学好きの人を持ち上げるようなイメージになってしまいそうで微妙ではあるんですが。。

数学をしたい人のそばで、気持ちよく数学を楽しめるよう伴走するポジション。

おそらくそれをしている人たちが表に出てくる機会はめったにないけれど、実はそれぞれに工夫したり楽しんだりしていると思うので、今後少しずつ仲間が見つかって励まし合っていけるようになるといいなと思っています。

◎おまけ:私は本当に「数学が好き」ではないのか?

おまけとして、日曜数学会での発表後に浮かんだこの疑問について書いておきます。

今回私は「数学は好きじゃないけど、好きな人のために(仕方なく)数学の話を聞いてあげてる」立場を自称して発表しました。
しかし何を隠そう、過去の日曜数学会in札幌では自主的にこんな発表もしています。

www.slideshare.net

また、1089という数に興味を持って自由研究をしたこともありました。

www.slideshare.net

パートナーから数学の話を聞いて、「それは面白い!!」と心から感動することも少なくありません。

そう考えると実は、世間の(数学に接点も興味もない)人と比べたら「数学が好き」なのかもしれません

しかし一方で私には、自分よりも圧倒的に数学を大好きな人が、常にそばにいます。その人のように情熱を持って数学を勉強することは、自分にはありません。

でもでも、だからといってイベント等でパートナーの付属物扱いをされるのは嫌。だって、そこらの人よりは数学が好きだと思うから。

というかんじで、好きだけど、どうしても身近な人と比べてしまって「好き」とは言い切れない。でも興味のないものとして距離を置くこともできないし、パートナーのおまけだと思われるのは不本意。これが、私がたまに数学に対して抱く"もやもや"の正体だったのだと、私は今回の発表を通して気付くことができました。*4

このことについては自分の中でもまだ決着がついていないところなので、思うままに書き散らしてしまいましたが、もし同じような立場の方が考えていること・実践していることなどあれば聞かせてもらいたいなぁと思っています。共感・反論・アドバイスなどあれば、コメント欄でもtwitterでも書き込んでいただければと思います。

◎謝辞

最後になりましたが、数学そのものに関する発表ではないにも関わらず、温かい雰囲気で発表を受け入れてくれた日曜数学会というイベントに感謝しています。また、今回参加させてもらった日曜数学アドベントカレンダーも、いろんな立場の人たちが参加されて、いろんな分野・いろんなレベルで数学について投稿されているようです。日曜数学イベントの間口の広さは素敵だなと思います。

日曜数学アドベントカレンダー、明日はsato/佐藤 紡@摂理 新人Vtuberさんの「統計の確率分布(特に連続)ってなんだろう?」というお話だそうです。明後日以降にはまだちらほらと空きがあるようなので、参戦するなら今です!!!
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*1:元々のターゲットである「自分と同じような立場の人」たちに向けて話すなら…と考えて作ったバージョンのスライドもこっそり公開していますので参考までに貼っておきます。

www.slideshare.net

*2:という記事を3月頃に書きかけていたんですが途中で力尽きてお蔵入りになっていたものを、今回、アドベントカレンダーにあわせて仕上げて公開したという次第です。

*3:特にオイラーフェルマーだけは本当に区別がつかないからそこはもう寛大な心で許してもらうしかないです。

*4:そもそも「好き」と「好きじゃない」の2極に分ける必要はないと頭ではわかっているつもりなんですが、いざとなると自分で自分のとるべきポジションをはっきりさせることができなくて、ついもやもや・ふわふわしてしまうというかんじです。